タオ療法臨床百話 / 政治亡命者、Kさんの物語

RIVOと言う団体があります。これは各種有志セラピストが集まっている団体で、
そのセラピーはいわゆる政治亡命者、それに伴う拷問などの圧制の犠牲者たち
を対象にしています。私は過去5年間この団体に属し、数々の人々の治療にた
ずさわってきました。

亡命先にも本国にも居られない

その団体の活動の中で出会ったKさんは、アルジェリアの出身で、視力障害のあ
る人でした。アルジェリアの内戦のため1996年にアメリカに亡命し、2002年ま
で滞在したのですが、9・11以来のイスラム教徒への差別政策により本国へ強制
送還されるところでした。そこをカナダ在住の彼の友人に救われ、その尽力によ
って、とりあえずカナダのモントリオールの教会へ難民として受け入れられました。
しかし、彼は「いつか、捉えられて強制送還されるのではないか」という疑心
暗鬼に取り付かれてしまいました。そのため、あてがわれた畳4畳分くらいの自
分の部屋から外へ出ることができませんでした。

治療を受け入れてくれた彼は

私は、そのような状態だった彼を治療する機会に巡り合いました。治療は2週
間に1度のペースで、2年余り続きました。
はじめ彼の『気』は重く、恐怖感はとても強く、気分は落ち込んでいました。
また、恐怖感のためか、体中に痛みを感じていました。しかし、彼は
私の治療を受け入れてくれました。私はとても強い彼の感謝の気持ち
を感じることができたのです。
やがて、治療を重ねるごとに、彼の『気』は軽くなっていきました。睡眠も
ぐっと深く長くなり、心も休めることができるようになっていきました。

人生の再出発

そして治療を始めてから1年もたつころには、彼の思考もポジティブなものに
変わってきました。運動を始め、将来に希望を持てるようになったのです。
さらに1年たつと、カナダの居住権をとることができました。そうです、彼は、
その時にはそのような現実的なことも考えられるようになっていたのです。
ついに彼は、3年近く住んだ教会を出る決心をしました。アパートを借りて再
出発を期すことになったのは、それからすぐのことでした。

私が、心をこめて、最後の治療をさせてもらったのは、彼の新居ででした。

文 / ローレンス・ルフコート (カナダ モントリオール在住)

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